座り心地を決めるポイント:人間工学に基づいた「きもちのいい椅子」選び

椅子は、座ってみなければわからない。

もう一度言う。
椅子は、座ってみなければわからない。

座り心地を決めるポイント:人間工学に基づいた椅子選び

僕は家具屋の息子として常に木に触れ、木の香りに包まれて
育ってきた。
木の椅子を触りながら、質感に何とも言えない
安心感を感じたのを覚えている。

あれから数十年が経つ。今はお客様の暮らしに寄り添う椅子を
セレクトする立場になった。

その中で本当に座り心地の良い椅子はそんなに多くは無い。
セレクトの難しさを改めて感じている。

1. 座面の高さ:足が床につき、ほんの少しのゆとりがあること

子どもの頃、僕の家の狭い台所で食事をしていた。
その場所で座っていた背の高いスツール。小さい僕の足は床に
届かず、宙をぶらぶらしたままだった。
・・・懐かしい。

あのとき、座面が高い椅子にすっと腰かける大人たちが、
とても大きく見えた。大人になった今、その高すぎる座面から
立ち上がるときの膝のきしみを、僕はしみじみ感じている。

座面の高さが合わないと、足裏が安定せず、膝や腰がうずく
かもしれない。逆に低すぎれば腰が落ちすぎてしまうし、
もう少しでちょうどいいのに、と思うことがあるだろう。

そこを微調整できるかどうかが、座り続けるうえで意外と大きい。
足が床につくかどうか。その違いは、長時間座ったあと、
立ち上がったときの「楽ちん」さに現れる。

2. 座面の奥行きと形状:太ももを優しく受けとめるカーブ

信濃町古間の小学校。古い木造校舎で授業に立ち会ったことがある。
生徒が座るのは、板張りの椅子で、当たり前のように固い座面だった
けれど、今思えば座面の奥行きが妙に合っていなかった気がする。
深く腰掛けると膝裏に角が当たって、痛かった。

人間工学では、座面をほんの少し「滝状」にするだけで圧迫感が
減る。前縁がやわらかく丸くなっていると、膝裏にくい込みにくい。
そういえば母の実家のじいちゃんの椅子には、緩やかなカーブが
あった。あれはデザインの好みだけじゃなく、長い時間をかけて
たどり着いた知恵だったのかもしれない。太ももまでが疲れにくい
というのは、ほんの小さな曲線がもたらす大きな安らぎだと思う。

3. 座面のクッション性:体圧を分散し、身体を包みこむ

家で過ごす時間が長くなった最近、気がつくと椅子のクッションが
へたっていることに気がついた。表面に見えていないだけで、
中身の素材には寿命がある。内綿がへたると座り心地が変わる。
僕たちの暮らしも、少しずつ形を変えていくのだろう。

適度な弾力がある椅子に座ると、身体がふんわり包まれる感覚が
ある。お尻や太ももで支える力をバランスよく分散してくれるから、
疲れをあまり感じない。クッション性があるかどうかは、
ほんの数分座っているだけじゃわからないかもしれない。

でも、1時間、2時間と座り続けると、はっきりと差が出る。

体に沿った座繰りをした板座の椅子はとても不思議。
木だから硬いはずなのに柔らかく、とても心地が良い。
へたることもないしね。

4. 背もたれのカーブ:背骨に優しい支え

松葉屋家具店が作った椅子の背もたれは、大きく弧を描いている。
飾りではない。ちゃんと理由がある。背骨はS字に湾曲しているから、
それに合わせるように椅子を作れば、よりかかったときに負担が少ない。

深呼吸して背もたれに預けると、背中全体に柔らかい支点が生まれる。
おそらく、疲れを感じる場面ほど、このカーブに助けられるのだと
思う。意識していないときほど、そのありがたみがじんわりと
伝わってくる。

5. 肘掛けの有無と位置:腕を休め、立ち座りを手伝う

僕が30代のころまで、「肘掛けなんて年寄りくさい」と思っていた。
けれど30代を過ぎてから、疲れたときに肘掛けに腕を置くだけで
こんなに楽なのかと、ささやかな衝撃を受けた。

人間の腕の重さは体重の6%だと言う。僕は60キロ以上あるから
両肩で8キロ近い重しをぶら下げているわけ。

ちょうどいい高さの肘掛けに腕を置いた時、肩の力がスッと抜ける。

体にぴったりな椅子を選ぶ事は、肩こりと仲良くならないための、
確かな方法だったのかもしれない。

考えてみると肩こりなんて一生縁がないと思っていた。

肘掛けがあることで、腰掛けたときの安定感がぐっと増す。
立ち上がるときも手で支えがつく分、足腰への負担が減る。

もし、日常的に長い時間椅子に座って読書をしたり、映画を見たり
するのであれば、肘掛けがあると何か落ち着く。

6. 疲れにくい椅子がもたらす長居の楽しみ

以前、自宅のダイニングチェアが固くて、食事が終わったら
すぐに立ち上がってしまう日々を過ごしていた。
けれど、もう切って木製の柔らかいカーブを描いた座面の椅子を
導入したら、食事のあとの雑談が長くなった。

友人が遊びに来たときなど、気づくと何時間も過ぎている。
不思議と疲れない。

そういう椅子がひとつあると、暮らしの中で「座って過ごす時間」に、
まるで小さな余白が生まれる。お茶を飲んだり、本を読んだり、
窓の外の景色をぼんやり眺めたり。大げさに言えば、豊かな時間
というのはそうした“ちょっとした長居”から始まるのかもしれない。

7. 椅子選びの実践ポイント:試す、測る、想像する

  • 試す
    ショールームや家具店に足を運ぶ。靴と上着を脱いで腰掛ける。
    座面や背もたれ、肘掛けが身体にどうフィットするか、
    じっくり確かめる。5分ほど座ってみると、感覚が見えてくる。
    お店との条件が許されれば、1週間程度試用することをお勧めしたい。

起きがけと昼間、疲れた仕事終わりの夜と、体調によって座りの感触は
大きく変化する。室温によっても変わる微妙なものなのだ。

 

  • 測る
    座面高が膝裏の高さと合うかどうか。テーブルとのバランスはどうか。
    数値にしておけば、いざ通販で購入するときなどにも役立つかもしれない。
  • 想像する
    自分がどんな場面で座るか。食事だけなのか、読書や趣味の手仕事にも
    使うのか。用途に合った椅子の形状やクッション性を考えるのが大切。

8. 見た目と機能の両立:お気に入りの一脚を探す

愛着は、一目惚れのデザインから始まる場合もある
(かもしれない。幸運にも)。
見た目に惹かれて座ってみたら、意外にも自分にしっくりくる、
ということもある。

木の椅子には、得難いぬくもりがある。
ちょっとした傷や色の変化も、時間が積み重なって生まれる味わいだ。

そして、やはり大切なのは座り心地。
木製でも、布や革張りがあったり、クッション性をしっかり確保して
いるものならば、長時間座っていても疲れにくい。

機能とデザイン、両方がそろった椅子に出会えれば、それは多分、
一生もののパートナーになる。

9. まとめ:座るという何気ない行為を心地よく

結局のところ、人間工学に基づいた正しい姿勢を保てる椅子は、
身体の一部を無理に緊張させない。そういう椅子は、長時間座ることで
初めてわかる優しさを持っている。

僕たちは日々、座るという動作を繰り返している。
1日を考えて欲しい。
人は寝ているか、立っているか、座っているか、だ。
ちょっとした休憩や食事、おしゃべり、趣味の時間。木の椅子に腰掛けて、
ゆったりと体を預ける。
そのとき自分の身体をそっと支えてくれる椅子があると、暮らしはもっと
豊かになる。

「座る」という行為の大切さを思うと、家具というものが単なる道具
ではなく、時間の流れや人の生き方に寄り添う存在であることに気づく。

木製の椅子は、使うほどに身体に馴染み、触れた部分は手の脂で
徐々にツヤを帯びる。そうして刻まれた時間が、その人だけの
居場所を形づくっていく。


ほっと一息つける自分だけの場所が欲しい――そんな思いから生まれた、
この穏やかなひとときを過ごすための椅子。

軽やかなクッション性と優しい背もたれは、包み込むような安心感を
与えてくれる。素材には厳選された柔らかなファブリックを採用し、
長時間座っていても心地よさが持続。

リビングの片隅や窓辺に置くだけで、日常の喧騒から離れた穏やかな
時間が広がる。心身を解きほぐし、誰もが憧れるリラックス空間を
演出してくれる逸品だ。

必ず実際に座ってみてること。
人生のたった一脚を見つけ出して欲しい。



木目が流れる。波の跡のように。

白と茶の境界が、過去と現在を分ける。

さらりとした手触りに、長い年月が染み込んでいる。

触れるたびに、木は静かに応える。

何も言わず、ただそこに在り続ける。

 

 

タイトルとURLをコピーしました