松葉屋家具店で選ぶ、座り心地の良い木製椅子

なぜ今、椅子選びを丁寧に考えるのか
ダイニングで、私のお気に入りの木製椅子に腰掛けます。 硬すぎず柔らかすぎない座面に体を預けると、ふっと心が落ち着くのを感じる。
椅子――それは日々当たり前のように使っている暮らしの道具ですが、歳を重ねるにつれ「本当に心地よい椅子とは何だろう?」と考える機会が増えたように思います。
歳を重ねて気づく、椅子との新たな関係
最近では在宅で過ごす時間も増え、家の中で長く座る場面が多くなりました。 僕自身も、60代となり、体の変化や健康への意識が高まる中で、椅子選びをおろそかにできない理由が見えてきた気がします。私たちが作る椅子のように、体に寄り添う一脚の重要性を実感しています。
日常生活を振り返ってみると、私たちは無意識のうちに多くの時間を椅子の上で過ごしています。食事をしたり、読書をしたり、友人とのお喋りに興じたり…。
日本人の暮らしと「座る」時間
ある調べでは日本人は欧米の人々よりも椅子に座る時間が長いとも言われています。 広いリビングでソファに移る欧米式の暮らしとは異なり、日本では食卓と寛ぎの場がひとつになりがちです。そのため、食事の後もダイニングの椅子でお茶を飲んだりテレビを観たりと、一つの椅子に座り続けることが少なくありません。
だからこそ、私たちが提案する「座り心地の良い椅子」であることが、暮らしの質に直結してくるのです。
「見た目」だけではダメ? 椅子選びの失敗談
新しい椅子を選ぶとき、つい見た目のデザインやインテリアとの調和ばかりに目が行ってしまうかもしれません。 私自身、かつてネットで一目惚れしたデザインの椅子を衝動買いしたことがありました。部屋に置くと絵になる美しい椅子でしたが、いざ長く座ってみるとお尻や背中が落ち着かず、いつの間にか物置台になってしまったのです。
「椅子はデザインだけで決めてはいけない」――その言葉の意味を、身をもって知る結果になりました。私たちが大切にしている「座り心地」の重要性を痛感した経験です。
では、当店で心地よい木製椅子を選ぶためには具体的にどんなポイントに目を向ければいいのでしょうか。今こそ椅子選びを丁寧に考え、暮らしに寄り添う一脚を見つけるヒントを探ってみたいと思います。
私たちの椅子:座り心地を左右する構造
まず、私たちの木製椅子の構造に目を向けてみましょう。座り心地の良し悪しを決める要素として、座面の形状、背もたれのデザイン、そしてアームレスト(肘掛け)の有無が挙げられます。これらは椅子の見た目だけでなく、実際に座ったときの体の支え方に深く関わる部分です。
座面(シート):体を支える基盤
座面(シート)は、まさに座る人の体重を受け止める基盤です。平らな板座の椅子もありますが、私たちが作る椅子では、座面に絶妙な曲面(座ぐり)が施されているものが多く見られます。
例えば、職人が鑿(のみ)やカンナを使って座面中央をくぼませ、ゆるやかな凹みを作る。木の表面を少しずつ削り出し、浅いお椀状の座ぐりが完成する様子…その曲面こそが、座ったときにお尻や太ももを優しく受け止める秘訣です。こうした曲面座面はお尻の丸みに沿ってフィットし、体圧を分散してくれます。長く腰掛けても一点に体重がかからないため、痛みや痺れが起きにくくなるのです。
また、座面の前縁が滑らかに丸められている椅子も座り心地が良い傾向があります。太ももの裏への当たりがソフトになり、血行を妨げにくいからです。実際、座面が高すぎたり前縁が角張っている椅子では、太ももの裏が圧迫されて脚が痺れてしまうことがあります。
座面の高さは一般的に床から40cm前後が多いですが、大切なのは座った時に足裏がきちんと床につく高さかどうか。人によって適正な高さは異なりますので、当店では、お客様の身長に合わせて脚をカットするなど、調整も考慮しています。足がぷらぷら浮いてしまうと腿裏が圧迫され、冷えや疲れの原因にもなりかねません。
背もたれ(背板):姿勢とデザインの要
次に背もたれ(背板)です。背もたれは椅子の表情を決めるデザイン上の要でもありますが、その形状次第で背中の支え方が大きく変わります。
当店のダイニングチェアでは、腰から肩甲骨あたりまで支える高さの背もたれが多く見られます。背もたれが高すぎず、座ったときに肩甲骨の下あたりがちょうど当たるくらいの高さだと、上半身を無理なく預けられます。
背もたれの角度も重要です。垂直に近い背もたれは姿勢が起きやすく食事向きですが、少し(数度〜十数度)後傾していると体をリラックスして預けやすくなります。食後にそのまま椅子で寛ぐなら、ほんのり背もたれが後ろに傾いた設計だと楽かもしれません。私たちの椅子には、そうした寛ぎの時間も考慮されたデザインが見られます。
さらに、背もたれの板や桟(さん)が体の曲線に沿ってカーブしている椅子も座り心地が良いと感じます。人の背骨は緩やかなS字を描いていますから、そのラインを受け止めるように背もたれを湾曲させたり、腰の部分が少し前に出るような形状だと腰掛けたときの安心感が違います。私たちが作る椅子には、木製でありながら背もたれにゆるやかな曲面や適度なしなりを持たせ、寄りかかったときにフィットする工夫がなされているものが多くあります。
アームレスト(肘掛け):あると嬉しい理由
そして**アームレスト(肘掛け)**について。肘掛けの有無はデザイン上の好みだけでなく、実用性にも大きく影響します。
肘掛け付きの椅子は見た目に重厚感が出ますが、長時間座るには嬉しい存在です。当店のアームチェアに座れば、肘を預けられることで肩の力を抜くことができ、読書や編み物など手元の作業をするときにも腕が安定します。また、中高年の方にとっては立ち座りの際の支えにもなり、安全面でも利点があります。
例えばゆったりとしたアームチェアに腰掛け、お茶を飲みながら窓の外を眺めるとき、肘掛けに腕を預けるだけで上半身の緊張が解け、リラックスした姿勢を取ることができるでしょう。
ただしダイニングテーブルで使う場合は肘掛けが天板の下に収まる高さか、あるいは肘掛けなしの方がテーブルに寄せやすいなど、用途に応じた選択が必要です。当店では、様々なタイプのアームチェアをご用意しています。
いずれにせよ、座面・背もたれ・アームの構造がしっかり考えられた私たちの椅子は、見えない部分で座る人の体を支え、快適性を生み出しています。
(構造イメージ:当店の椅子。座面に曲面を持ち、背もたれが緩やかに湾曲。人が寄りかかった時に背骨全体が支えられ、太もも裏も圧迫されていない様子)
人間工学(エルゴノミクス)から生まれた快適性
私たちの椅子づくりにおいても、**人間工学(エルゴノミクス)**の視点は欠かせません。人間工学に基づいて設計された椅子は、見た目のデザイン以上に「人の体に合うこと」を追求しています。
専門的な研究においても、椅子の座り心地は姿勢や健康に直結する重要な要素だとされています。私たちも、長年の経験と知識に基づき、座り心地を人間工学的見地から考慮した椅子づくりを行っています。それほどまでに、椅子の快適性は探求する価値があるテーマなのです。
条件1:体圧分散で疲れにくく
人間工学の観点から考える理想的な座り心地には、いくつかの条件があります。第一に挙げられるのが体圧の分散です。
椅子に座ったとき、臀部や太ももなど体が触れる部分に体重がかかりますが、その圧力が一点に集中せず広く分散していることが望ましいとされます。圧力が分散していれば血流が極端に阻害されることも減り、同じ姿勢でも疲れにくくなるからです。
私たちが作る椅子に見られる座面の曲面加工(座ぐり)や、適切なクッション性を持つ座面(布張りやペーパーコードなど)は、この体圧分散を助ける工夫と言えます。例えば、座面全体に程よい弾力がある椅子に腰掛けると、お尻が少し沈み込んで包み込まれるような感覚を味わうでしょう。これは木製椅子でも可能で、板座でもわずかにしなる構造や別売りのシートクッションを併用することで、**「硬すぎず柔らかすぎない」**絶妙な座り心地を目指しています。
条件2:正しい姿勢をサポート
第二の条件は正しい姿勢が保てるサポートです。人間工学的に長時間疲れにくい姿勢とは、背骨が自然なS字カーブを描いている状態だと言われます。
当店の椅子では、深く腰掛けた際に、腰(背骨の下部)がほどよく支えられて、背中全体が丸く曲がりすぎないような形を目指して設計されています。良い椅子は、この姿勢を無理なく保てるよう背もたれの形状と角度が工夫されています。例えば、腰部分に膨らみをもたせたランバーサポート付きの背もたれは、背骨の腰椎部分を支えてくれるので腰掛けたときに楽に背筋が伸びます。私たちが製作する椅子でも、明確なランバーサポートが無い場合でも、先ほど述べた背もたれのカーブによって同様の効果を狙っているものがあります。
ポイントは、背もたれに寄りかかったときに骨盤が後ろに倒れすぎず、胸が自然と開くような姿勢になることです。背骨が理想的なカーブを保てると、呼吸もしやすくなり、長時間でも疲労が溜まりにくくなります。
椅子の寸法と身体の関係
また、人間工学では椅子の寸法についてもガイドラインがあります。座面高、座面の奥行き(深さ)、幅、背もたれの高さや角度、肘掛けの高さ――これらが人の身体計測データに基づいて決められると、平均的な体型の人であれば誰もが座りやすい椅子になります。
例えば一般的な例として、座面高は身長にもよりますが約40〜45cm程度で膝がほぼ直角になる高さが推奨されます。また座面の奥行きは深すぎると小柄な人は背もたれに寄りかかれなくなり、浅すぎると大柄な人で太ももを十分支えられません。平均的には座面奥行き40cm前後が多くの人に適するとされますが、松葉屋では、自分に合ったサイズかどうか実際に座って確認していただくことを重視しています。
理論に裏付けられた私たちの椅子は、一見シンプルな形でも座ると不思議と楽に感じるもの。椅子選びではこうした人間工学の視点も頭に入れておくと、「なぜこの椅子は楽なのか」「なぜ疲れるのか」を判断する助けになるでしょう。
私たちの椅子:長時間座っても疲れにくい特徴
では、具体的に**「長時間座っても疲れにくい椅子」**とはどんな椅子でしょうか。それは、良い椅子が持つ、体圧分散や姿勢サポートといった要素を総合的に満たすことが鍵になります。ここではもう少し感覚的・具体的にその特徴を探ってみます。
① 安定感:安心できる土台
私たちの椅子が長く座っていても疲れにくい理由の一つは、まずその安定感にあります。ガタついたり不安定な椅子では、座る人は無意識に身体を緊張させてバランスを取ろうとしてしまいます。
しっかりとした構造で私たちが作る木製椅子は、腰掛けたときにどっしりと安定し、安心感を与えてくれます。例えば、脚が細すぎず適度な太さがあり、接合部(ほぞ組みなど)が頑丈に作られているため、揺れが少ないです。また、軽すぎる椅子よりはある程度重みがある方が安定感が感じられます。重すぎると移動は大変ですが、木の質量のおかげでしっかりと床に根を下ろしたような安定を得られます。
② 動きの許容:自然な姿勢変化を促す
次に、動きを許容してくれる設計もポイントです。同じ姿勢でじっと座り続けると、人間はどうしても疲れてしまいます。そのため、私たちの椅子のように、座ったまま体重移動や姿勢変化がしやすい椅子だと長時間でも楽です。
例えば、背もたれに寄りかかった状態と背筋を起こした状態とで、自然に姿勢を変えられるような余裕がある設計が望ましいです。窮屈に体が固定されてしまうような形状は避けるように考えられています。
私たちの椅子の中には、背もたれがわずかにしなる素材・デザインのものもあります。人が寄りかかる力に合わせてほんの少したわむ背もたれは、体を優しく追従して支えてくれるので、長時間でも当たりがソフトです。
また座面に張り布や編み込み(ペーパーコードなど)を採用した椅子は、適度に伸縮してお尻の形に沿うため、板座より疲れにくい場合があります。木製フレームでありながら座面は鹿革のクッションというタイプも製作しており、それらはお尻への衝撃を和らげてくれるでしょう。
③ 通気性:蒸れにくさも大切
通気性も見逃せません。長時間座っていると、人と椅子の接触面が蒸れてくることがあります。特に夏場は汗ばむこともありますね。
その素材特性と仕上げ(後述のえごま油仕上げ)により、革やビニールレザー張りと比べれば通気性が良くサラッとしていますが、それでも座面と背もたれが密着する部分はこもりがちです。そこで、背もたれに格子状やスリットが入っているデザインや、座面が板ではなくペーパーコード編みなどになっているデザインは風通しが良く、長時間でも快適さが続きます。木製のダイニングチェアでも、背もたれが細めの桟で構成されているものは視覚的にも軽やかですが、実際通気性という面でもメリットがあるのです。
④ 痛みが出ないか:試座で最終チェック
さらに、長時間座り続けて体に痛みが出ないことも重要なチェックポイントです。これは実際に当店の店頭で一定時間座ってみないと分からない部分ですが、例えば座骨が当たる部分が硬すぎて痛くなる椅子や、背もたれの縁が肩甲骨に当たってしまう椅子は、長く座るには不向きでしょう。
逆に、私たちの椅子の中には、背もたれの上部を握りやすい形状にして肩の力が抜けるよう工夫されていたり、座面前方を少しザグリ取って座骨への当たりを和らげていたりと、細部まで配慮が行き届いたものがあります。
実際に私も何脚かの椅子で1時間以上の座り心地テストをしてみたことがありますが、快適な椅子というのは時間を忘れさせてくれるものです。逆に少しでも体に合わない部分がある椅子は、10分もすると「あ、なんだか腰が落ち着かないな」と気づいてしまうものです。
ですから、本当に疲れにくいかどうかは座り手の感覚が正直です。ぜひ当店で長めに座らせてもらったり、自宅で使っているイメージを思い浮かべながら試座することをお勧めします。
当店で出会える、国産木材の風合いと特徴
座り心地を語る上で、素材である木材の話題も外せません。木製椅子の魅力の一つは、木が持つ風合いや温もりを直に感じられるところです。当店では、日本の豊かな自然が育んだ多様な国産木材を主に使用しています。ここでは代表的な木材と、それぞれの特徴について見てみましょう。木の種類によって硬さや質感、色合い、経年変化が異なり、座り心地や見た目の印象にも影響を与えます。
ナラ(オーク):力強い木目と堅牢さ
ナラ材は日本の広葉樹を代表する木材で、その力強い木目と堅牢さから私たちも椅子に多く使用しています。木の表面に現れる虎斑(とらふ)と呼ばれる模様はオーク材特有の美しさです。
ナラは硬く重みがあるため、ナラ材の椅子はどっしりと安定感があります。耐久性にも優れ、毎日使っても狂いが出にくいのが利点です。色味は淡い茶褐色から落ち着いた飴色へと経年変化していき、使い込むほどに渋みのある光沢が増していきます。触れると適度にざらっとした木肌で、使っていくうちに手に馴染む独特の手触りがあります。素朴で親しみやすい雰囲気を持ちながらも頑丈なナラ材は、毎日の暮らしに寄り添う椅子にぴったりでしょう。
ヤマザクラ(山桜):滑らかな木肌と上品な色合い
ヤマザクラはその名の通り桜の木で、日本人にとって特別な響きを持つ素材です。木材としてのヤマザクラは「本桜」とも呼ばれ、その美しさから人気があります。特徴は何と言っても滑らかで美しい木肌と上品な赤みを帯びた色合いです。木目は細やかで均質、磨くと絹のような艶が出ます。
新品のときは淡いピンクがかった薄紅色〜赤褐色ですが、時間が経つにつれて色味が深まり、落ち着いた濃い飴色へと変化していきます。その経年変化の大きさもヤマザクラの魅力で、使い込んだ椅子はアンティークのような味わいを帯びるでしょう。
硬さは比較的硬く重さも中程度あり、強度・耐久性に優れていますが、加工性も良いため繊細なデザインにも使われます。ヤマザクラ材の椅子に腰掛けると、肌触りはしっとりとなめらか。その控えめでいて華やかな存在感は、和の空間にも洋の空間にもすっと溶け込むでしょう。
クルミ(胡桃):温かな色合いと靭性
クルミ材は日本ではオニグルミなどが知られ、その優しい風合いから用いられています。北米産のブラックウォールナットと同じクルミ科ですが、国産のクルミ材はそれより明るめで温かな色合いを持っています。少しグレイッシュがかった淡い茶色から、僅かに赤みを帯びた優しいブラウン色が特徴的です。木目は適度に通直で素朴、一方でところどころに濃淡のある表情があり、ナチュラルな雰囲気を醸し出します。
硬さは標準的で加工しやすく、衝撃に対する**靭性(しなやかな強さ)**が高いと言われます。クルミの椅子は、見た目に素樸でホッとするような暖かみがあります。使っていくと次第に色が深まりツヤが増しますが、ウォールナットほど濃く暗くはならず、穏やかなブラウンのトーンを保ちます。「派手さはないけれど落ち着いて長く付き合える」——クルミ材はまさにそんな言葉が似合う、優しい座り心地の印象を与える素材です。
その他の木材
これらの国産木材以外にも、例えばクリ(栗)(耐水性が高く軽やかな木目)、タモ(明るい色調とまっすぐな木目)、ブナ(堅く弾力のある材)など、様々な木材を使った椅子をセレクトしています。
それぞれの木が持つ個性が、椅子の表情と座り心地に影響を与えるのは面白いものです。椅子を選ぶとき、デザインや座り心地とともに「これはどんな木でできているのだろう?」と素材に注目してみると、より愛着を持って選ぶことができるかもしれません。
私たちがこだわる「えごま油仕上げ」
私たちの仕上げは、**全て植物性の「えごま油」**で行っています。これはウレタン塗装やラッカー塗装とは異なり、木材にえごま油を染み込ませて表面を保護する方法です。天然由来の成分で木を優しくコーティングします。
木の質感と温もりをそのままに
えごま油仕上げの特性としてまず挙げられるのは、木の質感をそのまま活かせる点です。えごま油は木に浸透しますが表面に硬い膜を張らないため、塗装した後でも木肌の触り心地が損なわれません。手で触れると木の細かな凹凸や温もりが感じられ、「木と直接対話している」ような感覚があります。
先ほど触れたようなナラ材やケヤキ材のしっとりした手触り、ヤマザクラの滑らかさ、クルミの優しい風合い――これらを存分に味わえるのが、えごま油仕上げの魅力です。見た目もテカテカと光沢のある塗膜仕上げとは異なり、自然な艶とマットな質感が調和した落ち着いた表情になります。
例えば、えごま油を塗ったばかりの椅子は木目がいっそう鮮やかに浮かび上がり、深呼吸すると木の香りが心地よく感じられる、まさに五感で楽しめる仕上げと言えるでしょう。
自分で育て、味わいを深める
また、えごま油仕上げはメンテナンスが比較的容易なのも利点です。使っているうちに表面の艶が薄れたり、小さな擦り傷が付いたりしても、ご自身でえごま油を塗り直すことである程度補修できます。布にえごま油を含ませて木部にすり込むように塗り、余分なオイルを拭き取って乾拭きする――このようなお手入れを定期的に行えば、美しい状態を長く保てます。
むしろ、そうした手入れを繰り返すことで経年変化の味わいが増していくのです。例えばナラ材の椅子なら、えごま油を染み込ませるたびに木目がさらに落ち着いた色合いになり、時間とともに飴色の光沢が深まります。ヤマザクラ材なら、使い始めの頃には明るかった色が徐々に濃く赤みを帯び、えごま油を重ねることで渋さが増していくでしょう。
ウレタン塗装だと表面の塗膜が剥がれたり割れたりすると専門業者での再塗装が必要ですが、えごま油仕上げなら自分の手で育てるように風合いを変えていける点で、愛着もひとしおです。
えごま油仕上げの注意点と魅力
ただし、えごま油仕上げは完全な膜を作らない分、水や汚れに対する耐性はウレタン塗装ほど強くはありません。水滴を長時間放置するとシミになったり、油汚れが染み込む可能性があります。そのため食事で使う椅子では、こまめに布巾で拭くなど日々の気遣いは必要です。
しかしそれを差し引いても、木の呼吸を感じられるこの仕上げは根強い人気があります。椅子に腰掛け、そっと肘掛けに触れたとき、木の優しさが手に伝わってくる——そんな瞬間をもたらしてくれるのが、えごま油仕上げなのです。
デザインより大切な「自分に合った椅子」を
ここまで、座り心地の良い木製椅子を選ぶための様々な視点を見てきました。最後に改めて強調したいのは、**「デザインより大切なもの」**についてです。
店頭に並ぶ、美しく作られた椅子たちを目の前にすると、つい色や形の美しさに心を奪われがちです。しかし、毎日使う椅子で一番大切なのは「自分にとって心地よいかどうか」だと私たちは考えます。デザインが素晴らしい椅子でも、自分の体型や生活スタイルに合わなければ宝の持ち腐れになってしまいますし、逆に一見地味な椅子でも座ると身体がほっと安心するような一脚であれば、それはきっと掛け替えのない相棒になるでしょう。
「椅子100脚座り比べ」が教えてくれたこと
実際に、ある家具店で開催された「椅子100脚座り比べ」というユニークなイベントでは、来場者がデザインも価格も様々な100種類の椅子に実際に座って評価する機会があったそうです。興味深いことに、来場者から最も高い評価を得たのは「見た目の派手さ」ではなく「座る人のことをとことん考えて作られた椅子」でした。
デザインの良さももちろん大事ですが、それ以上に「日本人の暮らしに合ったリアルな椅子」が支持を集めたのです。この結果は、私たちが大切にする「椅子はデザインだけで決めてはいけない、座り心地こそ重要」というメッセージを象徴しているように感じます。
座り心地を体感することの大切さ
松葉屋家具店では、常時30脚以上の様々なデザインの椅子をご用意し、実際にじっくりと座り比べる機会を重要視しています。
多くのお客様が時間をかけて座り心地を確かめられる中で、やはり最終的に選ばれるのは、見た目の印象だけでなく、ご自身の体に合い「これなら長く座れそうだ」と感じられる椅子です。デザインの好みも大切ですが、それ以上に、日々の暮らしの中で使う実用的な道具として、ご自身の感覚にしっくりくるかどうかが重要だと、私たちはお客様との対話の中から日々感じています。
このことは、私たちが大切にする「椅子はデザインだけで決めてはいけない、座り心地こそ重要」というメッセージを、お客様ご自身の体験を通して実感していただける、何よりの証だと考えています。
自分に合った椅子を見つける6つのポイント
では、自分に合った椅子を見つけるには具体的にどうすればいいのでしょうか。椅子選びのポイントをいくつかまとめてみます。
- サイズ・寸法の確認: 座面高や奥行き、幅が自分の体格に合っているか確認しましょう。座ったとき足が床につき、奥まで腰掛けて背もたれにもたれられるかが目安です。実際に座ってみて、窮屈さや余りの感じがないかチェックします。必要であれば脚カットなどの調整もご相談ください。
- 使用シーンをイメージ: その椅子をどこでどう使うのか想像してみます。食事用、くつろぎ用、仕事用など目的によって適した椅子のタイプは変わります。食卓で長話するなら背もたれに傾斜がある方が楽かもしれませんし、書斎で使うなら肘掛け付きが便利でしょう。スタッフが、お客様の暮らしにフィットする椅子選びをお手伝いします。
- 座面と背もたれの形状: フラットな座面よりも体に沿う曲面があり、背もたれも背中のラインを支えてくれる形状だと長時間でも疲れにくいです。私たちの椅子のデザインを見るときも、曲線や傾斜、座ぐりなど座り心地につながるディテールに注目してみましょう。
- 素材と仕上げ: 当店で扱う木材の種類によって触れ心地や見た目の印象が違います。重厚感のあるナラ、滑らかなヤマザクラ、優しいクルミ、風格あるケヤキ…好きな風合いの木はどれでしょうか。また、仕上げは全てえごま油仕上げです。その質感やメンテナンス性も考慮して選びましょう。素材の個性を知ることで、その椅子への愛着も増すはずです。
- 実際の座り心地: カタログや写真だけで決めず、実際に座ってみることを強くおすすめします。数分腰掛けただけでは分からない部分もありますが、第一印象で「おっ?」と感じるほど楽な椅子はやはり良いものです。複数の椅子に座り比べてみると、それぞれの座面の硬さや角度、体の支え方の違いが体感でき、「自分はどんな座り心地が好きか」が見えてくるでしょう。
- デザインとのバランス: 最終的には見た目の好みも大切です。せっかくならインテリアに映えるデザインを選びたいもの。ただし「座り心地8割、デザイン2割」くらいの気持ちでバランスを取るのがおすすめです。長年付き合う椅子だからこそ、見た目の流行より自分の体が喜ぶかどうかを重視したいですね。私たちの椅子は、座り心地とデザインの両立を目指しています。
自分の感覚を信じて
以上のポイントを踏まえて、おそらくあなたの生活にしっくりとなじみ、使うほどに愛着が湧いてくることでしょう。
デザインは確かに人の心を惹きつけますが、その椅子に座ったとき身体が発する小さな声にも耳を傾けてみてください。「これならずっと座っていたい」「なんだか落ち着く」——そんな直感こそ、自分に合った椅子を教えてくれるサインではないでしょうか。
あとがき ~きもちのいい椅子と暮らして~
椅子についてこれほど深く考えてみると、一脚の椅子がまるで人生の伴侶のようにも思えてきます。振り返れば私自身、若い頃はデザイン重視でインテリアを選んでいましたが、歳月とともに「長く付き合えるもの」を選ぶようになりました。
そして出会ったのが、きもちのいい木製椅子でした。朝食のときも読書のときも、時には落ち込んだときにただ座ってぼんやり窓の外を見るときにも、この椅子はいつも静かに私を支えてくれています。美しいだけではなく、疲れた体をそっと受け止めてくれる優しさがある——そんな椅子に出会えたことを今では幸せに感じます。仕上げのえごま油の奥深い艶や、使い込むほどに増す木の色合いも、日々の小さな喜びです。
この記事を書きながら、改めて自分の暮らしを見直すと、私たちの椅子ひとつで日々の心地よさが大きく左右されることに気づかされました。もし今お使いの椅子に少しでも不満があるなら、ぜひ一度、時間をかけて“本当に自分に合った椅子”を探してみてください。
決して安い買い物ではないかもしれません。丁寧に選んだ一脚はきっとその価値を日々実感させてくれるはずです。デザインに心ときめくのも素敵なことですが、その先にある座り心地や使い心地、そして木の温もりに目を向けることで、暮らしの質は一段と高まるでしょう。
最後に付け加えるなら、「椅子は座ってみるまで分からない」ということ。文章や写真では伝えきれない感覚が、実際に座った瞬間に「ああ、これだ」と胸に落ちることがあります。
ぜひ多くの椅子と出会い、座り比べて、自分だけの運命の一脚を松葉屋で見つけてください。それはきっと、暮らしの中であなたを静かに支え、豊かな時間をもたらしてくれる存在となるはずです。常時30脚程度のきもちのいい木製椅子を座り比べていただくことができます。
丁寧な暮らしを愛する皆さんにとって、この文章が椅子選びの一助となれば幸いです。どうぞお気に入りの木製椅子とともに、心地よい毎日をお過ごしください。