使い続ける為の注文家具−「KURA」信州に住むより−

家具業界の転換期に松葉屋が決めたこと

明治時代に漆器店として創業、大正の頃から家具の製造・販売を手がける松葉屋。歴史ある善光寺門前の町並みにしっくりと溶け込んだ「老舗の家具店」であるが、老舗とひとことでは括れないほど、ここ100年の間、日本での家具に対する価値観と流通のあり方は様変わりしてきた。祖父母から両親へと引き継がれる家具づくりを善光寺門前の町の移り変わりとともに見つめてきたのが、松葉屋の7代目、現在店主を勤める滝澤善五郎さんだ。

戦前は、役所や学校で使われる洋家具を扱い、地域では欠かせない小売店として繁盛していた。ところが昭和40年代に入ると、家具の小売業界も店舗の大型化が始まった。長野市内の家具店も次々と郊外に進出していったという。

「小売業で成り立っているこの町自体が、完全に時代に取り残されたという雰囲気でした。」と答辞の様子を語る滝澤さん。「でもそれは、この町で商売をする、私たちの努力が足りなかったということなんです。」

東京の美大で工学デザインを学び、大門町に帰ってきた滝澤さんが店を引き継いだのは昭和62年のこと。時代は大量消費のまっただ中であったが、「満足してもらえるものを作る為に、量産は考えられない」と、お客さんとの対話をもとに作る注文家具を事業の中心に据えた。目指すのは、木が生えてきた数百年と同じだけ、何世代に渡って使い続けることのできる家具。「家族に暮らしていく100年単位のサイクルに関係ないものは作らない、そう決めたんです。」

使い続ける家具にこだわる理由

日本でも家具は本来、何世代にも渡って受け継がれるものだったと話す滝澤さん。「今の風潮ですと、CO2削減の為にハイブリットカーに買い替えればエコだと考えられがちです。でも、それでいいのかなーと。新たにものを作るには、相応のエネルギーを使います。愛用できるものを長く使い続けることこそが、求められているのではないでしょうか?」

歴史の重みを感じさせる蔵づくりの店内には、無垢の木材が種類も様々に展示されている。松葉屋が注文を受けて手がけるのは、樹齢200年にも及ぶ国産広葉樹の一枚板でつくるテーブルやキッチンなど。塗料や接着剤にもできる限り化学物質を排除して、誰でも安心できる自然素材にこだわっている。

新築やリフォームでオーダー家具の発注を受けることが全体の7割。その他に、家具の「修理・再生」も松葉屋の仕事の大きな割合を占める。「古い机の裏を見たら、昭和2年と欠かれた松葉屋のシールが貼ってあって、直してもらえないかという電話がかかってくることがあります。おじいちゃんが使っていた両袖の机を座卓に変えたいという注文もありました。」

作った家具を修理・再生することは、家具の責務であり、大切な役割であると話す滝澤さん。「何十年も前に百貨店で買い求めた家具でしたら、修理できないということが多いでしょう。商売を長く続けていることは私たちの取り柄であり、責任だと思っております。」

KURA

 

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