森と木と火の関係

国内の用材不足によって輸入材が用いられるようになった1960年頃から、急速に日本の森林の状況が変わっていきました。木材の自給率が劇的に低下したことによって、かつては山で仕事をしていた人たちも減少し、それによって手入れされないままの暗くて危険な山が増えています。
それらをふまえてこれからの森のことを、山仕事創造舎の香山さんと話しました。

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香山さん 人類が木を使うようになったきっかけは薪からだといわれています。森林にある木と出合った、という点では出発点ですね。人間は森の中にいたら猿のままだったけど、森から出たから人になった。だからって森から完全に離れることはできないですけどね。

善五郎 森と火はくっついてるんですね。

香山さん 最初は山火事とかから火と付き合い始めたんでしょうね。それが火をコントロールし始めるようになっていく過程で猿から人になっていきました。それは森林がないとありえない。火を使って、煮炊きをするためには森林がないと暮らせなかった。建築などの木材として使うのは、おそらくその次ですよね。たとえば竪穴式住居を実際に見ても大して木が使われていない。木材としての利用比率は本当に少ないですね。だから、森林は“燃料”として使うという「木と火の関係」が基本でした。近代の林業になってからも戦前くらいが日本の燃料生産・利用が圧倒的だったんですよ。

善五郎 それが、わずかな時間で激変した。

香山さん 1960年頃に燃料木材から石油・石炭に変わっていったことで、急速に日本の森林状況が変わっていったんです。

善五郎 戦後の森の変化は、そこが大きな原因なんですか?

香山さん 伐採した後に燃料として用いてい森林が、当時不足していた建築用材としての人工林に変わってしまい、燃料として使えなくなった。加えて戦争に負けたことにも影響を受けた。さまざまな事情がたまたま同じ時代に重なったとも言えます。

善五郎 生活様式が変わって、煮炊きや飯炊きが電気やガス、石油になっていったということですよね。昔の住宅はかまどを中心に一間で卓袱台で食事をして、片づけて、そこでみんなで寝ていた。七輪(*1)で魚を焼いていたの、そんなに昔ではない気がします。

香山さん 都市部で変化が始まったのは19世紀ですけど、完全に入れ替わったのは1960年頃です。

善五郎 姉はりんご農家で、つい最近まで薪風呂でした。お風呂を沸かすのも、昔は大変だった。

香山さん 薪風呂は最後までありましたね。今は薪ストーブが復興してきた。でも薪で煮炊きをするのは、ほとんど絶えたんじゃないですか。

善五郎 僕が子どもの頃に、家に使われていないかまどがありました。

香山さん 戦前は都市部でも、他に方法がなかったのでかまどだったんですよね。

善五郎 でも、森林の使い方という部分では元に戻るのはもう無理ですよね。

香山さん 元には戻らないですね。だけどエネルギーの使い方は基本的には森林につながると思うんです。森林って、太陽エネルギーなんですね。夏の暑さを貯めておいて冬に使えたらいいなってよく言うじゃないですか。薪を使うことは、そもそもそういうことなんですよ。夏の間に育った木はエネルギーを貯蔵しているんです。だけど石油や石炭は過去の蓄積で生み出されて、それを掘り出していたら、いつかは枯渇する。バイオマス発電は非常にバランスが悪くて、熱はただ捨てているだけなんですよね。そうやって比較してみると、森林は最も合理的な太陽エネルギーの使い方のひとつですよね。人間が普通に使う熱は100度以下でいいので、熱を利用するだけなら木質で十分なんです。

善五郎 たしかに無理がないですよね。でも、どの辺がネックになるんでしょうか。

香山さん ヨーロッパで研究されているのは、大規模な発電ではなく熱供給を基本としておまけで発電する考え方で、コージェネレーション(*2)っていうシステムです。地域熱供給といって何軒かの住宅で共有することで都市部のある1ブロックにチップボイラーを置いて、そこで出たもので熱の配管をしていくシステムです。それが最も効率がいいバイオマスの使い方だと言われていて、電気も発電するんですね。

善五郎 熱さえあれば電気がほとんどいらないような気がします。

香山さん 普通の使い方ならそんなに電気はいらないんですよ。ただ熱は大規模に広範囲で使うので難しいんです。

善五郎 パイプで熱を伝える制約ですか?

香山さん 木材は遠くまで運ぶのがとても大変です。昔は森林の近くに住みついて距離を短くしていました。そういう意味では森林の近くに分散して住むというのが、本来の姿なんじゃないかと思うんです。森林から離れたところにわざわざ家を作って集中して住むのは、エネルギーの使い方としては石油や電気がなければ絶対に不可能な暮らし方になる。都市はあってもいいけど、もう少し分散して小規模になったほうがいいと思っています。

善五郎 町内10戸で空き地や駐車場などにボイラーみたいなものを作ったらいいですね。そういえば昔の銭湯はそんな規模でした。うちのそばにあった銭湯は薪で沸かしていました。

香山さん そのくらいの規模で熱源を作って熱の配管をしていけばすごくいいですね。実際にヨーロッパではどんどん進んでいて、ヨーロッパの家は家中に配管をして熱を回して温めていく。日本はひと部屋ごとでエネルギー効率的には非常に良くない。

善五郎 そうですね、ボイラーのようなものは作れても配管が大変ですよね。

香山さん でも水道とか電気はやっているから、急にはできないけれども構想を持っていれば都市部の方がやりやすいです。長野市のようにたくさん森林があれば利用できる量が計算できる。全体としては成長量以上には切らないということが大原則なので。

善五郎 成長した分だけ木を切ればいい。

香山さん それと供給可能な熱量は単純に計算できるので、実際には昔のような木質燃料の使い方って熱エネルギーの利用が少なかったんですよね。熱エネルギーってほとんど捨てちゃってたので、新しい技術を使えば非常に効率的ですね。

善五郎 夢が広がるなあ。

 

*1 七輪(しちりん) 木炭や豆炭を燃料に使用する調理用の炉。軽量かつコンパクトで移動が容易。大量に製造され日本各地の家庭などで使用されてきたが、全国的な燃料となる木炭の生産量は1950年代から1970年代までの間で1/10 に激減しており、この時期に、七輪の利用の場の多くがガスコンロなど他の調理器具、各種暖房器具などへ取って変えられた。
*2 コージェネレーション (cogeneration) 英語では“combined heat and power” ともいわれる。これは、内燃機関、外燃機関等の排熱を利用して動力・温熱・冷熱を取り出し、総合エネルギー効率を高める、新しいエネルギー供給システムのひとつ。

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山仕事創造舎
代表 香山由人さん
神奈川県出身。海外NGO、国会議員秘書を経て大町市八坂で山暮らしをはじめる。木こり歴24年。長野県指導林業士、信州フォレストコンダクター

 

※本記事は「松葉屋通信43号」に掲載したものを再編集してご紹介しています

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