椅子は、座ってみなければわからない。 座り心地の良い木製椅子を選ぶ際の基準

椅子は、座ってみなければわからない。

もう一度言う。
椅子は、座ってみなければわからない。

写真や寸法だけでは、体に馴染むか、長時間快適か、確かめようがない。
なのに、カタログやネットの美しい画像を信じ、画面越しの「理想」を買ってしまう。
届いて初めて気づく、
微妙な高さの違い、硬すぎる座面、背中を預けたときの違和感。

椅子は道具であり、共に生きる相棒だ。
失敗すれば、そのたびに腰を浮かせ、不満を抱え続けることになる。
残念なことに人間はそれに慣れてしまう。
そして何か居心地が悪いなと思いつつ、何年も何年もその椅子に座り続けることになる。
悲劇か、それとも喜劇か。

椅子こそ、実際に座って、
できれば、何時間、あるいは何日かそれと過ごしてみて、選ぶべきなのだ。

座るということ、椅子というもの

良い椅子とは、なんだろう。
座る、という行為に寄り添い、長く共に生きるもの。
座って本を読む。仕事をする。食事をする。あるいは、ただぼんやりと過ごす。
そのどれにも違和感なく馴染む椅子が、いい椅子だ。

  1. 体を預ける場所
    椅子に腰を下ろしたとき、体がすっと馴染むか。
    硬すぎず、柔らかすぎず、心地よい支えがあるか。
    座面は、ただ平らであればいいわけではない。
    わずかに窪みがあったり、背もたれが緩やかなカーブを描いていたり、
    そういう細かな工夫が、長時間座っても疲れない秘密になる。
  2. 木のぬくもり、座る感触
    木の椅子には、木ならではの温かみがある。
    手のひらで触れたときの、すべすべとした感触。
    座ったときの、ひんやりとした冷たさから、じんわりと体温になじむ変化。
    もし硬さが気になるなら、少し座面が掘られた「座ぐり」加工があると良い。
    それでも長時間の座り心地を求めるなら、
    ウレタンのクッションや、張地の柔らかさが助けになるだろう。
  3. 高さと奥行きの話
    椅子の高さはとても大事だ。
    足の裏、つま先、踵がしっかり床につくこと、膝裏が圧迫されないこと。
    テーブルと合わせるなら、差尺は28~30センチほどが理想。
    奥行きは深すぎても浅すぎてもいけない。
    腰をしっかり支えてくれるか、背中が安らげるか、試してみるといい。
  4. 木という素材、その佇まい
    無垢の木で作られた椅子は、時を経るほど味わいが増す。
    小さな傷も、色の変化も、使い込むほどにその人に馴染んでいく。
    木目の流れ、節の表情。
    それらをひとつひとつ見比べながら選ぶのも、椅子を選ぶ楽しみのひとつ。
  5. 背もたれと肘掛け
    背もたれは、ただそこにあるだけではいけない。
    腰を支え、安心感を与えるものでなくてはならない。
    S字カーブを意識した形なら、姿勢を正しく保つ助けになる。
    肘掛けがあると、より安らげる。
    食卓に座って話す時間、読書をするとき、
    あるいは、ただぼんやりと遠くを眺めるとき。
  6. その椅子が、空間に馴染むか
    椅子は、単なる道具ではなく、空間の一部でもある。
    その家の雰囲気、暮らしの中に溶け込むか。
    シンプルな北欧デザインも良いし、
    日本の木工技術が生きたものも、美しい。
    選ぶのは、使う人の感性次第。
  7. 最後に、座ってみること
    どれだけ理屈を並べても、最後は体で感じるしかない。
    座ってみて、しっくりくるか。
    無理のない姿勢でいられるか。
    しばらく座って、立ち上がったとき、名残惜しさがあるかどうか。

それが、いい椅子の条件だ。

これから何日かにわたって「きもちのいい椅子」を選ぶ基準を中心に、
細かく椅子のことあれこれを語っていく。

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