椅子は、座ってみなければわからない。
もう一度言う。
椅子は、座ってみなければわからない。
写真や寸法だけでは、体に馴染むか、長時間快適か、確かめようがない。
なのに、カタログやネットの美しい画像を信じ、画面越しの「理想」を買ってしまう。
届いて初めて気づく、
微妙な高さの違い、硬すぎる座面、背中を預けたときの違和感。
椅子は道具であり、共に生きる相棒だ。
失敗すれば、そのたびに腰を浮かせ、不満を抱え続けることになる。
残念なことに人間はそれに慣れてしまう。
そして何か居心地が悪いなと思いつつ、何年も何年もその椅子に座り続けることになる。
悲劇か、それとも喜劇か。
椅子こそ、実際に座って、
できれば、何時間、あるいは何日かそれと過ごしてみて、選ぶべきなのだ。
座るということ、椅子というもの
良い椅子とは、なんだろう。
座る、という行為に寄り添い、長く共に生きるもの。
座って本を読む。仕事をする。食事をする。あるいは、ただぼんやりと過ごす。
そのどれにも違和感なく馴染む椅子が、いい椅子だ。
- 体を預ける場所
椅子に腰を下ろしたとき、体がすっと馴染むか。
硬すぎず、柔らかすぎず、心地よい支えがあるか。
座面は、ただ平らであればいいわけではない。
わずかに窪みがあったり、背もたれが緩やかなカーブを描いていたり、
そういう細かな工夫が、長時間座っても疲れない秘密になる。 - 木のぬくもり、座る感触
木の椅子には、木ならではの温かみがある。
手のひらで触れたときの、すべすべとした感触。
座ったときの、ひんやりとした冷たさから、じんわりと体温になじむ変化。
もし硬さが気になるなら、少し座面が掘られた「座ぐり」加工があると良い。
それでも長時間の座り心地を求めるなら、
ウレタンのクッションや、張地の柔らかさが助けになるだろう。 - 高さと奥行きの話
椅子の高さはとても大事だ。
足の裏、つま先、踵がしっかり床につくこと、膝裏が圧迫されないこと。
テーブルと合わせるなら、差尺は28~30センチほどが理想。
奥行きは深すぎても浅すぎてもいけない。
腰をしっかり支えてくれるか、背中が安らげるか、試してみるといい。 - 木という素材、その佇まい
無垢の木で作られた椅子は、時を経るほど味わいが増す。
小さな傷も、色の変化も、使い込むほどにその人に馴染んでいく。
木目の流れ、節の表情。
それらをひとつひとつ見比べながら選ぶのも、椅子を選ぶ楽しみのひとつ。 - 背もたれと肘掛け
背もたれは、ただそこにあるだけではいけない。
腰を支え、安心感を与えるものでなくてはならない。
S字カーブを意識した形なら、姿勢を正しく保つ助けになる。
肘掛けがあると、より安らげる。
食卓に座って話す時間、読書をするとき、
あるいは、ただぼんやりと遠くを眺めるとき。 - その椅子が、空間に馴染むか
椅子は、単なる道具ではなく、空間の一部でもある。
その家の雰囲気、暮らしの中に溶け込むか。
シンプルな北欧デザインも良いし、
日本の木工技術が生きたものも、美しい。
選ぶのは、使う人の感性次第。 - 最後に、座ってみること
どれだけ理屈を並べても、最後は体で感じるしかない。
座ってみて、しっくりくるか。
無理のない姿勢でいられるか。
しばらく座って、立ち上がったとき、名残惜しさがあるかどうか。
それが、いい椅子の条件だ。
これから何日かにわたって「きもちのいい椅子」を選ぶ基準を中心に、
細かく椅子のことあれこれを語っていく。