長野県初の木質バイオマス発電所「いいづなお山の発電所」がスタートしたのは平成17年。いつも飯縄山や戸隠に行く道すがら、横目で見ていた発電所です。
「バイオマス」は、動物・植物などを由来とする生物資源の総称です。木質チップを燃焼してタービンを回す。そして発電する火力発電所です。
バイオマスの現状を知りたいと思い、長野森林資源利用事業協同組合理事長の宮澤政徳さんに会いに行ってきました。
————— 炭焼きからはじまり、バイオマス発電へ
宮澤さん 私は飯綱山の梺の中曽根、北郷地区の出身です。わが家のルーツは炭焼きを大昔からやっていたようで、戦後は建築用の復興木材の需要が高まり木材生産事業を行ってまいりました。その後、建築用材として売れない未利用木材を使ってチップ材の生産事業を営み、製紙工場などへ納めていました。
私はそれを引き継いだのですが、木材産業自体が大変な時期で、思い切って製紙原料などの不採算事業から撤退。平成10年に長野市中曽根地区に拠点を移して、木材リサイクル事業として吹付用構層基盤材の生産を始めました。ヨーロッパの各地の先進事例を参考に、平成17年から木材チップを活用した発電事業(バイオマス発電)をスタートしました。
地域で使うエネルギーは地域の資源で賄う
宮澤さん 現在は飯綱・戸隠地域の民有林を中心に、500ヘクタール以上を管理しています。国有林など公有林の事業もありますから、相当な森林面積の管理をすることになります。私どもの発電所はそんなに大きくないとはいえ、年間3万トンから4万トンの木材を燃料にします。一部は地域の森林組合や林業事業体から買い付けていますけれども、燃料用の木材を業者さんに依存していると高くなってしまう。 私たちは木材運送会社もやっているので、自分たちで山元まで取りに行く。あとは全て自社で生産を行い、販売用の商材として出荷販売するものと販売出来ない低質材に分別を行い、低質材を発電所の燃料材に使用。燃料材はほぼ自給ができています。
私たちの仕事で大切にしているのは、下請けはしない、外注に出さないということ。仕事を内部で循環させます。 大規模に仕事はできないけど、地域の仕事をしっかり行うという強い意思でやっています。 地域で使うエネルギーは、地域の資源で賄うことを目標に、次の世代につなぐための森林づくりを積極的に行っています。
電力の地産地消、本当の仕組み
宮澤さん 小売電気事業を行っている、グリーンサークルという会社があります。その会社が「いいづなお山の発電所」の電気を全量引き取り卸売を始めました。平成28年4月からは制度上の変更があり、長野市役所をはじめ市内の各種需要施設に直接電力販売を行っています。 発電量自体は一般家庭で7500から8000世帯程度の小さな電源なのでそんなに供給先を広げることはできませんが、電力に関する取り組みも行っています。
私たちが行う発電電力供給事業は“地産地消”と言われますが、地域の需要先で使用する電力は、私たちが作り出す電力というわけではありません。供給電力は、 国土全体が大きな電力ネットワークという大きな水がめを想像していただくとわかりやすいかもしれません。その水がめに発電した電力を入れているわけです。その中には中部電力さんの電力ですとか、各種新電力さんの電力も入っていて、それら電力の取り出しにうちの電力の小さな 蛇口があり、それを捻ると出てくるようなイメージです。 需要先が使用する電力は私どもの電気といっても原子力発電所も稼働していればここに入ってくるわけです。私たちの施設が果たせる役割はほんの僅かではありますが、山間地域の森林資源を有効に活用できるパイロット事業だと考えています。
森林資源が多い長野県。その活用
善五郎 この地域の広葉樹についてはどうですか?
宮澤さん 飯綱山麓は標高800〜1000メートルで、トチやブナなどの原生林は多くありません。国有林などは木島平や志賀高原の奥などで生産していた時代もありますが、現在は自然保護の問題もあって滅多に伐採することはありません。信濃町や小谷の奥山では、高林齢の楢枯れが進み、もったいないなと思ってはいます。
基本的に私たちは、広葉樹を切ることはあまりしません。森林の公益的機能考えると、できるだけ残しておきますね。広葉樹は奥山でも里山でも、昔は燃料材として切っていましたが、今はほぼ伐採して使う人はいないです。 ですから広葉樹の資源量は増え続けていると思います。
けれども広葉樹の価値を見出せず、伐採搬出してもなかなか売れないですね。たとえば広葉樹の大径木を板に加工しても全体の需要からすると僅かなものですし、製紙用原料に生産しても輸入木材と比べると生産コストが高くなってしまう。あとは、再生紙の漂白技術が良くなり私たちが使用する紙製品はバージンパルプ(*1)を使用したものは殆どないと思いますよ。
善五郎 長野県は森林資源が多いですが、あまり活用されてないように思います。発電に活用されるのはメリットが多いと思いますが。
宮澤さん たしかに森林資源は豊富ですが、民有林については個人の財産ですし、集約化して事業化するにはハードルが高いと思います。また、搬出する労働力不足は顕著で、できるだけ機械化を進めています。バイオマス発電事業は林業事業体が行う事業としては良いと思いますが、他の事業者が事業とすると難しいでしょう。私たちは使用する発電用燃料のそのほとんどを自給していて、 間伐や皆伐施業を行った後の林地残材や一般材として売れない未利用材を使って発電しているので、原料の調達費が安く済んでいます。電力の売上の半分以上を燃料木材の調達費用に掛かるようであれば事業として成立しないでしょう。
長野市のごみステーションは2500カ所位ありますけど、剪定枝とか刈草って分別して出すのをご存じですか? あれは私たちの処理施設でペレットに加工処理しているんです。ペレットは炭素分が少ないせいか熱量も小さいですが、それでもカラマツチップほどの熱量はあります。剪定枝とか刈草木皮など燃料にするには水分を多く含みますから、発電所の排熱で乾燥させペレットに加工します。
あとは、発電のため行うボイラー燃焼後の焼却灰も、安全で高炉セメントなどを加えて造粒にして砂利を作っています。これを林道や作業道の路盤材に使用することで有効利用しています。
*1 バージン材・バージンパルプとは、古紙を利用したものではなく、最初から木材や非木材を材料にして製造されたパルプのことを言います。
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森の木を燃やし、薪に、木炭に、活用してきた僕たち。今回の薪から炭へ、そしてバイオマス発電への旅は かがでしたでしょうか?
電気の発電も水力から石炭石油を燃やす火力に。
ところが人間はふと気がつきました。石炭や石油は無限にあると思ったら、どうもそうではないらしい。このままではいかん!と。
夢の燃料だと思っていた原子力が夢ではなかったと気付かされた今。 僕たちの暮らしのありかたも含め、いろいろ考えなくてはいけないのかもしれませんね。
※松葉屋通信43号に掲載したものを再編集してご紹介しています