こんばんは。100年家具店店主、松葉屋善五郎です。
連載でお送りしている「一生使える学習机」十二の想い。
今回は第七章で取り上げているのは、「そもそも学習机はいつから、ニッポンの普通になったのだろうか?」というナゾです。
ニッポンの“不思議なスタンダード”。そんな視点で身の回りを見返してみると、実に面白いことってたくさんあるんだと思います。
第七章 学習机は本当に必要か
一、学習机は日本独特なもの?
子どもたちが勉強用に使用する机は、どこの国にもあります。しかし、
小学校入学時に合わせて、わざわざ個人用に購入する国は少ないようです。
では、日本の学習机のスタイルとは、どのようなものでしょうか?
おそらく皆さんが連想するのは、こんな学習机ではないでしょうか?
いわゆる学習机として販売されているものに、「単なる平机」というものはほとんどありませんね。
「いわゆる学習机」のタイプ
例えば……
・取り外しができる工夫のあるつくり(設計)
・本棚やライトなどのオプションが設えてある
・最低3杯以上の引き出しがある
・さらに特徴的なのは、「高さ調整のできる椅子がセット販売」
僕はこの「いわゆる学習机」に疑問を抱いていました。
正直、やたらと「多機能」だと思いませんか?
この、一見便利そうに見える特徴、本当に必要なものでしょうか。
皆さんにも経験があるかと思いますが、
いろいろな便利機能が搭載されている道具ほど、
使いこなせないですよね?
むしろ、どれだけすべての機能を使えるのでしょうか?
本当に必要な最低限の機能を考えたいものです。
二、たとえば、北欧の風景
PISA(OECD生徒の学習到達度調査)や学校生活満足度調査で上位にある北欧の国々では、どんな学習机のスタイルでしょうか?
北欧インテリアショップなどで見かける子ども用家具。小さな机と椅子のセットがありますね。
「きっとここに子どもが絵とか描いたりするんだろうな」などと、机に向かう子どもの背中が想像できるような家具です。
しかし、これは主に幼児用家具です。机に向かっての『おままごと』用ですね。
しっかり勉強するような年頃の子ども部屋の風景には、
・食卓テーブルのようなシンプルな平机
・造り付けのカウンターテーブルなどがスタンダード
ベッドなどとコーディネートされていて、「学習机が一番目立つ家具」ということはありません。
三、私の考え
では、日本の学習机の大きな役目は何でしょうか?
「適切なタイミングに、適切なものを子どもが自分で決めること」の大切さ
実は、教材や学習道具の収納が大半を占めている場合があります。機能的な収納は整理整頓の訓練にはいいかもしれません。
しかし、低学年の子どもがひとりで机に向かって勉強する、ということは少々無理があるように思います。
また、この年頃は特に親子のコミュニケーションが必要なときです。
親子が密着して過ごせる時間って本当に短いけれど、子どもの心の成長の糧となる大切な時間です。
きっと「自分のようすを、いつも見守っていてもらった」という、安心感や充足感でいっぱいの、幸せな思いが最も蓄積されるべきときです。
こどもが安心できるため、親子の時間を共有するために、ある時期まではリビングの机やダイニングテーブルで勉強し、そうして子どもがひとりでも集中できるようになった時、『自分にあった机を買いに行く』というのがよいのではないかと考えます。
少なくとも、こども自身の好みがハッキリしてくる頃がいいかと思います。子どもが「自分で選んだんだ」という意識をもてるかもてないかでは、その机を大切にすることに大きく影響してくると思います。
そして椅子は、高さ調節ができたり回転したりすると、便利そうに見えるかもしれませんが、それは器械としての機能であって、座り心地や集中しやすいか、ということになると「?」と思わざるを得ません。それくらいなら、いっそ成長に合わせて買い替えたほうがよいと思います。
こどもが勉強するためには過剰な仕掛けはいりません。けれど入学時に合わせて購入しようとすると、おそらく子どもは机の仕掛けや付いているキャラクターなどに惹かれてしまうでしょう。それは、すぐに飽きてしまう可能性を孕んでいます。机に対する「飽き」は、もしかしたら「机に向かうこと」に興味を失ってしまうことにもつながりかねませんね。
学習机の大切な役割のひとつは、もちろん勉強するためですが、それよりも自分に向き合うこと、自分の居場所の確保としての意味があると思います。
子どもが主に母親を必要とする時代、父親を必要とする時代、そして自分だけの空間が欲しくなる、という成長の時代が、適切な学習机のタイミングです。
学習机の問題点は、机そのものではなく、それを必要とするタイミングの問題なのではないかと、考えます。
いつの間にか、当たり前になってしまった流行に流されず、子どもとじっくり向き合って、必要なものとの付き合い方を子どもに教えられるのは、お父さんとお母さんだけです。