「一生使える学習机」十二の想い(7/12)

こんばんは。100年家具店店主、松葉屋善五郎です。

連載でお送りしている「一生使える学習机」十二の想い。
今回は第七章で取り上げているのは、「そもそも学習机はいつから、ニッポンの普通になったのだろうか?」というナゾです。

ニッポンの“不思議なスタンダード”。そんな視点で身の回りを見返してみると、実に面白いことってたくさんあるんだと思います。

 

第七章 学習机は本当に必要か

 

一、学習机は日本独特なもの?

子どもたちが勉強用に使用する机は、どこの国にもあります。しかし、

小学校入学時に合わせて、わざわざ個人用に購入する国は少ないようです。

では、日本の学習机のスタイルとは、どのようなものでしょうか?

おそらく皆さんが連想するのは、こんな学習机ではないでしょうか?

いわゆる学習机として販売されているものに、「単なる平机」というものはほとんどありませんね。

「いわゆる学習机」のタイプ

例えば……

・取り外しができる工夫のあるつくり(設計)
・本棚やライトなどのオプションが設えてある
・最低3杯以上の引き出しがある
・さらに特徴的なのは、「高さ調整のできる椅子がセット販売」

 

僕はこの「いわゆる学習机」に疑問を抱いていました。

正直、やたらと「多機能」だと思いませんか?

この、一見便利そうに見える特徴、本当に必要なものでしょうか。

皆さんにも経験があるかと思いますが、

いろいろな便利機能が搭載されている道具ほど、

使いこなせないですよね?

むしろ、どれだけすべての機能を使えるのでしょうか?

本当に必要な最低限の機能を考えたいものです。

 

二、たとえば、北欧の風景

PISA(OECD生徒の学習到達度調査)や学校生活満足度調査で上位にある北欧の国々では、どんな学習机のスタイルでしょうか?

北欧インテリアショップなどで見かける子ども用家具。小さな机と椅子のセットがありますね。

「きっとここに子どもが絵とか描いたりするんだろうな」などと、机に向かう子どもの背中が想像できるような家具です。

しかし、これは主に幼児用家具です。机に向かっての『おままごと』用ですね。

しっかり勉強するような年頃の子ども部屋の風景には、

 

・食卓テーブルのようなシンプルな平机

・造り付けのカウンターテーブルなどがスタンダード

 

ベッドなどとコーディネートされていて、「学習机が一番目立つ家具」ということはありません。

三、私の考え

では、日本の学習机の大きな役目は何でしょうか?
「適切なタイミングに、適切なものを子どもが自分で決めること」の大切さ

 

実は、教材や学習道具の収納が大半を占めている場合があります。機能的な収納は整理整頓の訓練にはいいかもしれません。

しかし、低学年の子どもがひとりで机に向かって勉強する、ということは少々無理があるように思います。

また、この年頃は特に親子のコミュニケーションが必要なときです。

親子が密着して過ごせる時間って本当に短いけれど、子どもの心の成長の糧となる大切な時間です。

きっと「自分のようすを、いつも見守っていてもらった」という、安心感や充足感でいっぱいの、幸せな思いが最も蓄積されるべきときです。

松葉屋家具店 学習机

こどもが安心できるため、親子の時間を共有するために、ある時期まではリビングの机やダイニングテーブルで勉強し、そうして子どもがひとりでも集中できるようになった時、『自分にあった机を買いに行く』というのがよいのではないかと考えます。

少なくとも、こども自身の好みがハッキリしてくる頃がいいかと思います。子どもが「自分で選んだんだ」という意識をもてるかもてないかでは、その机を大切にすることに大きく影響してくると思います。

そして椅子は、高さ調節ができたり回転したりすると、便利そうに見えるかもしれませんが、それは器械としての機能であって、座り心地や集中しやすいか、ということになると「?」と思わざるを得ません。それくらいなら、いっそ成長に合わせて買い替えたほうがよいと思います。

松葉屋家具店 学習机 山桜

こどもが勉強するためには過剰な仕掛けはいりません。けれど入学時に合わせて購入しようとすると、おそらく子どもは机の仕掛けや付いているキャラクターなどに惹かれてしまうでしょう。それは、すぐに飽きてしまう可能性を孕んでいます。机に対する「飽き」は、もしかしたら「机に向かうこと」に興味を失ってしまうことにもつながりかねませんね。

学習机の大切な役割のひとつは、もちろん勉強するためですが、それよりも自分に向き合うこと、自分の居場所の確保としての意味があると思います。

子どもが主に母親を必要とする時代、父親を必要とする時代、そして自分だけの空間が欲しくなる、という成長の時代が、適切な学習机のタイミングです。

学習机の問題点は、机そのものではなく、それを必要とするタイミングの問題なのではないかと、考えます。

いつの間にか、当たり前になってしまった流行に流されず、子どもとじっくり向き合って、必要なものとの付き合い方を子どもに教えられるのは、お父さんとお母さんだけです。

 

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