懐かしい香りのする、木の椅子と一枚板のテーブル。
日に照らされると艶のある色合いが浮かび、指先が触れたときの手触りが優しくて、つい撫でてしまう。
忙しい日常の中で、ふと腰かけた椅子があまりにも心地よいと、時間の流れを忘れてしまいそうになる。
「昔から使い続けているけれど、今になってなお味わいを増している家具」という存在は特別ではないでしょうか。
私も、ずっと使い続けてきた木製のダイニングの椅子に腰を下ろすと、まるで昔、子どもの僕と姉、母や父がいた温かな食卓に戻ったような感覚になります。
松葉屋家具店の滝澤善五郎です。
木製の椅子といっても種類はさまざま。
硬い座面で長時間座っているとお尻が痛くなってしまうものもあれば、まるで身体を包み込むように受け止めてくれるものも。
では、何がその違いを生み出しているのでしょうか。
今回の記事では、「座り心地の良い木製椅子の選び方・身体へのフィット感:体圧分散の重要性」をテーマに、深掘りします。
私たち日本人の体格やライフスタイルにフィットする、そんな椅子を選ぶために知っておきたいポイントを、可能な限り網羅しました。
どうぞ最後までお付き合いください。
序章:日常の中で感じる「座る」という行為
多くの方は、1日のかなりの時間を椅子の上で過ごしているかもしれません。
朝食をとるとき、書き物をするとき、パソコン作業をするとき、夜にはゆったりと本を読むとき。
意識はしていなくても、座る姿勢が身体に与える影響はとても大きい。
子どもの頃、学校の硬い木の椅子に座り続けていてお尻が痛くなった経験はないでしょうか。
あの時は、まだ身体が柔らかいから何とか耐えられた。
しかし年齢を重ねると、無理な姿勢や局所に負荷がかかる座り方はすぐに疲れや痛みとなって現れます。
今あらためて「心地よい椅子」を選ぶということは、これから先の人生を心地よく過ごすための投資だと私は考えます。
良い姿勢で身体を支えてくれる椅子に出会えれば、趣味でも仕事でも意欲的に取り組める時間が増えるし、何よりも日常の安らぎが一段と深まるのは間違いありません。
良い姿勢とは:上半身が立っているときの状態を保つこと
まず、座り心地の良い椅子を考える上で外せないのが「良い姿勢」についての理解です。
良い姿勢とは「立っている時と同じ状態を保てること」とよく言われます。
少しだけ具体的に表現すると、頭や肩、股関節が一直線に並んでいて、重心が前後に偏っていない状態が理想。
このとき、膝下が自然に伸びる形になるので、地に足がしっかり着くことが大切になります。
椅子が高すぎると足が浮いてしまい、太ももの裏を強く圧迫してしまう。
逆に低すぎると、膝が上がりすぎてお尻が丸まってしまい、腰への負担が増してしまうことがある。
大人でも、椅子が合わないと背が丸くなってしまうものです。
座り心地の良い椅子とは:骨盤が立ちやすいか
良い姿勢を保つためには、骨盤や座骨が立った状態をキープしやすい椅子が望ましい。
座骨を正しい角度で下ろすことができれば、腰への負担は格段に減ります。
私たちは、座骨の上に背骨や頭が積み上げられているため、その座骨の位置や角度が少し狂うだけで、背中や首に余計な力が入ってしまうのですね。
椅子選びのときには、まず「腰をしっかり支えてくれるか」をチェックしてみてください。
背もたれが腰のベルト(ウエスト)辺りに当たると、骨盤のあたりを自然に保持してくれるでしょう。
さらに、奥行きが深すぎないことも大切です。
深すぎると腰が背もたれに届かない状態で座ってしまい、結果として背中を丸めがちになってしまう。
深く腰を下ろした時に、ほんの少し背中を預けるとスッと身体を支えてくれる。
そんな椅子は座っていて安心感があります。
とりわけ木製のダイニングチェアは、身体に合った座面の形状が大事といえるでしょう。
体圧分散の重要性:身体への圧力をやさしく広げる
ここで、今回の主役である「体圧分散」に話を移します。
体圧分散とは、座っているときにお尻や太もも、背中にかかる圧力をできるだけ広い面で分散させること。
一点に圧力が集中すると、その部分の血行を阻害してしまいます。
例えば尾骨付近だけが当たっていたり、太ももの裏を鋭く圧迫していたりすると、痛みや痺れを感じやすくなります。
「同じ姿勢で座り続けられない」「すぐに座り疲れてしまう」方は、一部に圧力が集中している可能性があります。
一方で、身体の丸みに沿った椅子のある座面だと、お尻全体でしっかり受け止めてくれます。
背もたれもしっかり身体の曲線に寄り添ってくれると、腰や背中に負担がかかりにくくなります。
これが、いわゆる「長時間座っても疲れにくい椅子」なのだろうと思います。
体圧分散に優れた椅子を選ぶポイント
それでは具体的に、どんな椅子を選べば良いか。
ここからは、ポイントをいくつか見ていきましょう。
1. 座面形状
座面形状は、お尻や太ももの丸みを考慮したカーブがあるかどうかが肝心です。
フラットな木の板は、お尻の座骨や太ももの裏に負荷が集中しやすくなります。
座繰り(ざぐり)と呼ばれる、お尻の形に合わせて座面を削り込んでいる木製チェアは、その分身体を点ではなく面で支えてくれるので、体重がやさしく分散されます。
クッション入りの座面であっても、ただ柔らかければ良いわけではありません。
クッションには下層にやや硬めの素材、上層に柔らかめの素材を組み合わせることで、重さを受け止めつつも沈みすぎないように調整しています。
これにより、お尻や太ももの付け根あたりへの圧迫が緩和されるのです。
2. 背もたれ形状
背もたれは、背骨のS字カーブを意識した設計であることが理想的です。
腰回りのカーブに合わせた部分をランバーサポートと呼びますが、しっかり支えてくれると、腰が反りすぎたり丸まりすぎたりするのを防いでくれます。
特にラウンジチェアやイージーチェアなどのくつろぎ用の椅子は、傾斜が深く、背中を広い面積で支えてくれる形状が多い。
デスクワーク用のワークチェアは調整機能を持つケースもあります。
素材やデザインは様々ですが、試座するときには背もたれ全体のフィット感をチェックすることが大切。
3. 座面素材
木製椅子というと、すべてが堅い板座というイメージを持っている方もいらっしゃるでしょう。
実際に、クッション素材や張り地を組み合わせた「木製フレームの椅子」もたくさんあります。
発泡ウレタンが座面に使われていることが多いですが、硬さや復元性は製品によって異なるようです。
上質なモールドウレタンを用いたものだと、長期間使ってもヘタリにくいという特長があります。
※モールドウレタンとは
椅子の座面に使われるモールドウレタンとは、金型に液状のウレタンを注入して成形されたクッション材のことです。一般的なウレタンフォームと比較して、耐久性や座り心地に優れているため、オフィスチェアや高級な椅子などに多く使用されています。
布や革の張り地を選ぶ場合は、その素材感や触れ心地、さらにお手入れのしやすさなども考慮したいところ。
柔らかすぎると体が沈み込みすぎて姿勢が崩れやすくなり、硬すぎると底づき感で疲れてしまう。
かならず試座してみて、自分の感覚に合う絶妙な硬さを探してみることをおすすめします。
4. アームレストの有無
アームレスト(肘掛け)が付いている椅子だと、腕の重さを背もたれと一緒に分散できるため、肩や首が凝りにくくなることがあります。
女性の場合は、料理や家事の合間に座ることもあるかもしれませんし、長時間のデスクワークや趣味に没頭することもあるでしょう。
そんなとき、肘掛けのあるなしは思ったより大きな差を生むものです。
ただし、ダイニングチェアでは肘掛けがあるとテーブルの下に収納しにくい場合もあります。
そのため、使うシーンをイメージしながら選ぶとよいのではないでしょうか。
5. フットレスト(踏み台)の活用
座面の高さが合わないとき、足が浮いてしまうこともあると思います。
特にご家族の中で身長差がある場合、お子さんや背の低い方が足をブラブラさせて座っているのを見かけることがあるかもしれません。
そのままにしておくと、血流が悪くなったり、膝や腰に余分な力が入ったりしがちです。
そんなときには、フットレストを用意するだけで、足裏の重さを床に下ろすことができて姿勢がぐっと安定します。
木製椅子の素材選び:木目の美しさと耐久性
木製の椅子は、その素材が持つ風合いも大きな魅力です。
硬く傷がつきにくい広葉樹を使ったものは、年月を重ねるごとに深みのある艶を帯びてきます。
ウォルナットや楢、山桜などは特に人気がありますが、胡桃や栗といった国産の樹種も素朴な味わいがあって素敵です。
自然の木を使う椅子は、座るたびにふっと森林を思い出させてくれる。素材によって硬さや重さ、色合いがかなり違うのも事実ですがその他天然の木の大きな魅力です。
あまりに軽いと、座ったときにぐらつく感覚が出てしまう可能性もあり、実際にいろいろなシチュエーションで使ってみる、試してみる必要があります。
逆に重いと移動や掃除のときに苦労することもあり、
そこは、ご自宅の間取りや使い勝手をイメージしながら選ぶとよいでしょう。
テーブルとのバランス:差尺を意識する
ダイニングチェアの場合、テーブルの高さとのバランスも重要です。
椅子の座面高とテーブル天板までの高さの差を「差尺」と呼び、これまでの何百と言う経験から、28cmから30cm前後が基準と言って良いと思います。
これは、日本人の平均的な身長と上半身の長さに合わせると丁度よい寸法になる場合が多い。
実際には体型の個人差もあるので、すこし差があっても、座ってみて無理なく腕がテーブルに届き、太ももの上を圧迫しないかをチェックできれば安心です。
また、テーブルの幕板(天板下の補強板)が邪魔になって足を伸ばせないということもありますから、できるだけ実物で試してみることをおすすめします。
試座の重要性:長めに座ってみる
とどのつまり、「試座」が肝心です。
お店で椅子に腰かけるとき、つい座るか座らないか程度で終わってしまうかもしれません。可能であれば少なくとも10分、もしくは30分~1時間くらい座り続けて、身体に感じる違和感がないか確認してみてください。
同じ姿勢だけでなく、少し斜めに身体をひねってみる、背もたれに寄りかかってみる、あるいは座面の端に座ってみるなど、いろいろな座り方をしてチェックするのも良いでしょう。
長い時間座っても姿勢が崩れにくく、お尻や太ももに痛みが生じない椅子は、体圧分散が上手にできていると考えられます。
心地よい暮らしを支える、木製椅子という存在
たとえば日差しの入るダイニングで、深めの椅子に座ってコーヒーを飲みながら新聞をめくる。何気ない時間が、かけがえのない癒やしのひとときに感じられるます。
身体への負担が大きな椅子だったら、せっかくのゆったりした時間が腰や肩の痛みで台無しになるかもしれません。
「座り心地の良い椅子」は、私たちの暮らしをさりげなく支えてくれる存在なのでしょう。
気づかないところで、上半身がしっかりと立っている状態を維持してくれたり、体圧をまんべんなく受け止めてくれたりする。
その結果、私たちは疲れを感じにくく、きもちよく過ごすことができます。
もうひとつ、木製椅子の魅力は経年変化です。
使いこんでいくと、木の色味が深まったり、表面に味わいのある傷がついたりして、自分に馴染んだ「世界で一脚だけの椅子」になっていきます。
それは、なにか自分が歳を重ねるごとに深みを増していく感覚とも重なり、生活に寄り添ってくれるパートナーのようにも感じられます。
まとめ:座り心地の良い木製椅子を選ぶために
- 良い姿勢の意識
立っている時と同じ状態を座りながら保つイメージを持つこと。 - 体圧分散性
お尻や背中などにかかる圧力を、できるだけ広い面で支えてくれる椅子を選びたい。
座繰りやクッション性、背もたれ形状などを細かくチェックする。 - 素材とデザインの相性
広葉樹や針葉樹など、木目や硬さ、香りは種類によって違う。
実際に触れたり座ったりして、自分の感覚に合うものを見極める。 - テーブルとのバランス
ダイニングチェアなら、差尺を考慮しながら選ぶ。
座面の高さや、テーブルの幕板などにも注意を払う。 - 試座をして確かめる
一度に少しでなく、できるだけ長く座ってみる。
いろいろな体勢で座り心地を確認する。
座り心地の良い椅子を探す作業は、ある意味では「これからどんなふうに日常を過ごしたいか」を見つめ直す作業とも言えます。
毎朝のコーヒーをゆっくり飲む、香りを楽しむため、あるいは夜な夜な読書を楽しむため。
木の香りを感じながら、呼吸を整えて、腰を落ち着けられる空間がそこにあるだけで、暮らしの満足度は大きく変わるのです。
もし機会があれば、ぜひここ、松葉屋家具店で、心ゆくまで座り比べをしてみてください。
きっと、座面に腰を下ろして背もたれに寄りかかった瞬間に「これだ」と感じるものがあるでしょう。
それが、これからの人生のパートナーになる椅子かもしれません。
いかがでしたでしょうか。
身体へのフィット感や体圧分散をしっかり考えた木製椅子は、ただ家具として機能するだけでなく、使い手の心にも作用してくれます。
優しく身体を受けとめてくれる感覚があれば、日々の疲れも少し和らぐことに間違いありません。
ゆったりと時間を楽しみながら長く使える道具を探している方にとって、今回の情報が少しでもお役に立てれば幸いです。
良い椅子は、きっとこれからの暮らしの心地良さを支えてくれます。
松葉屋家具店では常時20数脚のきもちのいい椅子を座り比べることができます。
まず靴と上着を脱いで、身軽になって、家にいるような気持ちで座りくらべを楽しんでください。
皆様が「これだ」と思える大切な椅子に巡り会えますように。