林業から街の森を考える〜都市林業と近自然の森づくり(前編)

長野県大町市を拠点に、山の手入れ、間伐材生産を手がける『山仕事創造舎』代表の香山由人さんに、森と街と人の暮らしのよりよい関係について訊ねてみました。

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奥山は自然に還して、都市の“近自然”を創造する

善五郎 松葉屋では「善光寺界隈に森をつくる」を掲げて、店の裏に小さな森を作り始めました。それは街路樹を何とかしようという目先のことだけではなくて、街そのものを森にする。たとえば明治神宮みたいな森にできたら100年後の街にとって素晴らしいことじゃないかなと想像しているんです。

香山 都市に森があるのは、林業の立場から考えてもいいことです。なぜなら、木材をなるべく運ばなくてすむから。たとえばヨーロッパでは「都市林業」という取り組みが進められてきました。都市にある森の公園で林業を行なうというもので、実は明治神宮もこの観点を汲み取っています。ただし神の山として崇められているので、大きな木は伐採できないんです。

善五郎 そもそも林業のためにつくられた場所ではないですからね。

香山 そうです。だけど、100年経って課題が出てきました。森林は更新していくものですが、寿命を迎えた木が徐々に倒れるようになり、そこで人の手を加えていかなくてはならないという事態になってきました。

善五郎 森と人のちょうどいい関わりが必要ということですか?

香山 森でも街でもどういう風に人が木を育てていくか、きちんと考えなくてはならないわけです。近年では林業の考え方も変わってきて、奥山は自然に返して人の生活圏とともにある森林、いわば里山を作ろうという方向になってきました。これからの森林や林業を考えていく上で大切な視点のひとつと言えるでしょう。

木とともにある、飛騨の文化に学ぶ

善五郎 僕たちは小さな家具屋ですが、「身近な山で育った、素性のわかる木」を使う家具製作を進めています。木材の運搬にあまりにもコストやエネルギーがかかる仕組みは、外国材はもちろん国内材でもできる限り避けるべきではないかと。

香山 そういう仕組みができているのが飛騨ですよね。地元の工務店が地元の材で住宅を作るということが浸透しています。だから住宅メーカーの建売物件は少ないですよ。結局は家を建てる人も、飛騨の木を使って、地元の大工さんに作ってもらった方がいいとわかっているから。

善五郎 飛騨高山は街並みも風情が整っていて、いいですよね。

香山 永続的な山からの供給を考えて守り、身近な木を使うということが文化として残っています。結果的に大型の木材工場もできて森林の循環が生まれ、林業産業が盛んになっています。おかげで木材を適正に乾燥させて、使える材に仕上げる技術も向上し、きちんと製品に落とし込めているんです。200キロも300キロも運んでもしょうがないから、地元で還元される流通の仕組みをバランスを考えながら作ってきたというわけですね。

(後編につづく)

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