今日は松葉屋家具店の仕事納め。大掃除の一日でした。

寒空の下、店の大きなウィンドウガラスに向かい、
ホームセンターで買ってきた
プラスチックのスクイージー(水切りワイパー)を走らせていた
時のこと。
何度やっても、どうも拭き跡が残る。
手に伝わる感触が軽く、どこか頼りない。
「違う。あの時の感覚とは、まるで違うんだよな」
その瞬間、ふと学生時代の記憶が、ありありと
蘇ってきました。
今から40数年前のこと。
当時、私は武蔵野美術大学に通う学生でした。
住んでいたのは東小金井から歩いて15分、三鷹市井口の
「山田荘」風呂なし 共同トイレのアパートです。
(当時はそういうアパートが当たり前だったのです。)
ある日、『アルバイトニュース』で見つけた募集広告に
目が止まりました。
練馬の石神井公園に新しくオープンする、
マクドナルドの深夜清掃(メンテナンスマン)
時間は夜8時から、翌朝の8時まで。
たぶん、店舗の警備も兼ねての仕事だったのかな。
今思えばなかなかの重労働ですが、
当時の私は友人に借りっぱなしだった
原付バイク「ヤマハ GT50(通称ミニトレ)」にまたがり、
喜んで通ったものです。
中央線の武蔵境を北上、田無を抜け、青梅街道を右折して
練馬へ向かう道のり。
30分ほどの通勤時間、50cc 2サイクルのエンジン音と、
ヘルメット越しに感じる夜風を、鮮明に覚えています。
10時ぐらいになると、マネージャーや店長もいなくなります。
深夜の静まり返った店内で、黙々と作業が続きます。
客室、厨房の床のデッキブラシとモップがけ、窓ガラス磨き。
そこで出会ったのが、あの道具でした。
ずっしりと重い、真鍮(しんちゅう)製の金色のスクイージー。
そして、たっぷりと水を吸う黄色いウォッシャー。
「本物」の道具は、学生の私にも違いを教えてくれました。
その真鍮の重みに任せてガラスを滑らせると、
「スパッ」と音を立てて水が切れ、
曇りひとつない透明なガラスが現れる。
美大で造形を学んでいたせいでしょうか、
道具の機能性と道具の美さと、
完璧に仕上がっていくガラスの美しさに魅せられ、
誰も見ていない深夜だというのに、私は夢中になって
窓を磨き上げていました。
1階と2階、マクドナルドはほとんどガラス張りですからね。
ある日の明け方、その仕上がりを見た出勤してきたマネージャーが、
言いました。
「滝澤、お前はメンテナンスマンの鏡だな」
学生でしたから、その言葉に有頂天になりました。
でも今になって思うのです。
あれは、私の腕が良かったからだけではない。
「本物の道具」が、私に「仕事の基準」を教えてくれていたのだと。
良い道具は、使う人の背筋を伸ばします。
そして、深夜の誰も見ていない場所でこそ手を抜かない姿勢は、
そのまま今の仕事──「見えない裏側まで仕上げる家具づくり」に
通じています。
とても手前味噌な言い方ですが・・・
ヤマハGT50で駆け抜けたあの夜から、40年以上の月日が流れました。
場所は東京から長野へ、
向き合う相手は『ガラス窓』から『無垢の木』へと
変わりましたが、私の根っこにある「仕事への向き合い方」は、
あの頃と少しも変わっていないのかもしれません。
安価なプラスチックのスクイージーを握りながら、
そんな青春の1ページを思い出した大掃除でした。
来年は、あの頃のような「真鍮のスクイージー」を一本、
新調しよう思います。
あの頃の自分に恥じない仕事をするために。

皆様、本年も松葉屋家具店をご愛顧いただき、
ありがとうございました。
どうぞ良いお年をお迎えください。

松葉屋家具店 滝澤 善五郎

