ギャッベの魅力 ー 遊牧民が織り込む風景
古い友人のような絨毯がある。
どこか素朴で、使うほどに味が出て、ふわりとした温もりを持つ。
それがギャッベだ。
ギャッベとは何か
ギャッベとは、イラン南西部の遊牧民、カシュガイ族やルリ族が手織りする絨毯のこと。ペルシャ語で「粗い」「自然のまま」という意味を持つ。
遊牧民たちはテント暮らしのなかで、この絨毯を床代わりに使い、冬の寒さをしのぎ、夏の地熱から身を守ってきた。そのため、厚みのあるウールが使われ、ふかっとした弾力が心地よい。
手仕事の温もり
ギャッベには、まっすぐな線がない。
織り手の女性たちは、自然を見つめ、日々の暮らしの中で生まれたイメージを絨毯に織り込んでいく。だからこそ、微妙な揺らぎや、偶然のグラデーションが生まれる。機械織りにはない、手のぬくもりが、そこにはある。
遊牧民の暮らしを織り込む
ギャッベには、彼らの生活と文化が息づいている。
床敷き、寝具、収納…ひとつの絨毯が、いくつもの役割を果たす。
それだけではない。
遊牧民にとって、ギャッベは単なる日用品ではなく、「家族の歴史を織り込むもの」でもある。母から娘へ、祖母から孫へと受け継がれ、代々の記憶を紡いでいく。
自然の色をまとう
ギャッベに使われるのは、羊毛。染料もまた、草木染めによるものが多い。
ザクロで染めた赤、インディゴの青、くるみの殻から生まれる茶色。自然の色は、どこか優しく、年月を経るほどに深みを増していく。
また、天然のウールには調湿性があり、冬は暖かく、夏はさらりとした肌触りになる。さらに防炎性にも優れており、長く使い続けることができる。
他のペルシャ絨毯との違い
ペルシャ絨毯というと、緻密な文様や豪華な装飾を思い浮かべるかもしれない。
ギャッベは、それとはまるで違う。
- 織りの密度:通常のペルシャ絨毯よりも粗く、シンプル。
- デザイン:幾何学模様や動物、樹木など、自由な発想で織られる。
- サイズ:遊牧生活のなかで使いやすい大きさに仕立てられる。
どれも、移動しながら暮らす彼らの生活に根ざしたものばかり。
ギャッベのある暮らし
ギャッベは、部屋に敷くだけで空気を変える。
床に座り、足を伸ばし、その柔らかな感触を確かめる。素足で歩くと、羊毛のクッション性が心地よい。
視線を落とせば、そこには遊牧民の織り込んだ風景がある。
木々、鹿、山羊、星、太陽。すべてが彼らの記憶であり、祈りであり、願いでもある。使い続けることで、ウールはよりしなやかに、色はより深く馴染んでいく。
最後に
ギャッベには、語るべきことが星の数ほどある。
ほんの入り口。次回から、さらに深く、ギャッベの世界へと足を踏み入れていく。
お楽しみに。